はじめに
脳梗塞・脳出血による、脳がダメージを受けた部位に関係する色々な障害が出ます。
発症から6ヶ月過ぎると、回復はしないかのような扱いをされてしまう。
壊れた脳細胞は、再生しないという根拠が、基になっているようです。
通常では考えられない機能回復が起こった場合は、単なる偶然か奇跡と片付けられてしまい、どういったメカニズムによるものなのかの研究が進まず、理解されないままだと思います。
脳卒中患者や家族は、こんな訳のわからない病気になった方が悪いと、諦めざるを得ないのが現状です。回復を望む患者に対して、根拠に基づく適切なリハビリが、受けられて当たり前で、回復プログラムが存在する日が来ると願っております。
誰にでも回復は起こる
全ての人間は誰でも持っている能力ですが、反復練習によって脳内で再接合、再構築が起こっている。気が付かないが、何気ない日常生活を送る中にも自然に起きている。人間の脳は柔軟に変化することが出来、意識して努力を続ければ変われる。
脳卒中の後遺症も例外なく、失った機能はトレーニングによって再獲得できる。
脳の可塑性によって、脳地図さえ書き換えられ、新しい回路が生まれる。しかし健康な頃よりもそうとうな努力、情熱、目標設定、ポジティブ思考、忍耐、方法、安全、協力者、医師などが必要になると思います。
脳を育てる
一般的には、自然治癒する体験しかなく、自分自身で望んで、トレーニングによって脳を再構築するということを、理解しにくいと思います。
何か物を「修理」するようなことではなく、脳を発達させ改善することで、元に戻るというより、新たに自分を作り上げるということです。
自分自身を信じる
自分が回復を諦めたとたん、回復は終わります。
現在は回復について、否定的な考えを持っている人が多く、日々アゲインストの中、モチベーションを保つのは、至難の業だと思います。
脳の可塑性を信じ、トライし続けるだけでも相当な困難ですが、その情熱に水を差されても前に進み続けるには、自分の可塑性を信じて疑わない強い心が必要です。
本人が己を信じなければ、あまりに寂しいと思います。
心のケア
リハビリ病院は、実生活している社会とはかけ離れ、ある意味天国のような所だと思います。医師・看護師・セラピストの目が行き届き安心、安全な所です。
日常生活が自宅に戻っても出来るように、患者中心に考えてくれて、投薬やリハビリをやっていただけます。退院して自宅に戻ったとたん、現実を突き付けられて、あまりの問題の多さや、脳卒中前の自分とかけ離れた己を受け止めきれず、心が病んでしまうことが多いと思います。
天国のようなリハビリ病院では、麻痺した体の回復が中心で、ADLが送れる見込みが付けば、もう大丈夫だと太鼓判を押され、退院の運びとなってしまうが、心のケアにはあまり考慮がないと思います。
患者本人が脳卒中前の人生で培った、知識や経験によって、解決していくしかないが、それこそ個人差が大きいと思います。
家族の柱や要だった役目も果たせず、お荷物と化した自分自身を直視した中で、新たなアイデンティティを確立するのが良いと思いますが、そんなに簡単ではないと思います。
麻痺を回復させる中で、知恵や工夫によって、不自由な体でも健常者と同じことが、出来るといった自信や、社会の中で何かしらの役目を見つけるなど、自分で作り上げていくしか解決はないと思います。心が前向きにならなければ、狭い世界に閉じこもった生活の中に、安住してしまいかねないのは、一時は良いと思いますが、せっかく命が助かったのだから、楽しく暮らせば、二度おいしい人生だと思います。
もっと気楽に、ゆっくりと時の流れに身を任せて、休んでエネルギーを貯めてから、自分のやりたいことを、するのもいいじゃないでしょうか。
治療手段
やる気や努力は絶対必要ですが、回復への正しい治療法がなくては、良い結果を期待できない。脳卒中に対するノウハウを持っている、専門家の指導を受けながら、理解し実践するが、自分にとって適した施術なのか判断するためにも、自分も回復のプロセスを勉強する必要がある。確実な治療手段が必須だと思います。
現在のリハビリ界は発展途上にあり、エビデンスが足りず脳卒中の後遺症に対する考え方は確立していません。
本当の回復とは、脳卒中前と同じ生活が送れるようになる事と、誰もが願うと思います。
障害の質や程度は個人差がありますが、適切な治療が受けられる日が来ると信じています。
笑顔
苦しい時ほど笑顔で立ち向かう必要があります。
甲子園球児がピンチやチャンスの時に、自然に笑顔でプレーすることを、訓練されています。
ミスをした選手は心を切り変えられず、体がガチガチになり頭が真っ白になって、考えられない行動をしてしまったりする。あの時なぜこんなことをしてしまったのか、という経験は誰にもあると思います。
とても笑えない状況下で、笑顔を作ることによって、ポジティブで冷静な心に切り替えるように、自分を本気で騙すということだと思います。
何の問題もなく生活を送ってきた人が、突然脳卒中に襲われて、不自由な体でこの先どう生きて行くのか、先がまったく予想も出来なく、自分・家族・復職・経済など色々な問題に襲われて、心が混乱するのは当たり前です。
ショックから立ち直れず悲壮感では、日常生活ですらままならなくなるでしょう。
そんな時こそ無理にでも笑顔を心がけた方が、良いことが科学的にも裏付けられています。
脳卒中の後遺症の回復には必須な、脳の可塑性も、笑顔になるだけでもプラスに働きます。
せっかく助かった命を、もう一度輝かせるためにも、全てにおいて前向きに楽しく対処したら、自分らしい生き方を構築する、大きな力になると思います。
情報・知識
発症から今現在も必要としているのは、正しい知識や情報です。
なぜ病気になったかというよりも、自分の先が見通せ、自分にとってプラスになることなら、何でも知りたいと思っていますが、いろいろ困難なこともあると思います。
・高次脳機能障害などで、情報に触れる事がしにくい
・人間は負の情報に反応しやすく、それに流されやすい。正しい情報がどうかは別で、ネガ
ティブなイメージが多すぎる。
・ショックから立ち直れなくて、モチベーションを失くしている。
・元の体に戻りたい患者の願いと、厚生労働省の指導のもと急性期、回復期、維持期のリハ
ビリの考え方の違い。
・そもそも後遺症の回復についての情報が少ない。など
自分や家族の明るい未来を築きたくても、後遺症が残っていては、相当な部分を諦めたうえで、折り合いをつけていくしかないのが、現状では仕方ないようです。それも懸命な選択かもしれません。
医師、看護師、セラピスト、研究者の方々によって患者に寄り添った、地道なリハビリや新しい取り組みなど、退院すると疎遠になってしまいます。
自宅で生活する時間が中心になってからが、本当のリハビリを自分自身でするしかないが、回復を望む人なら役立つ情報は助けになるはずです。積極的に探す努力が必要です。
再発予防
脳卒中は再発しやすいということを聞きます。
一度目より二度目、三度目の方が後遺症も酷くなってしまうようです。
私は幸いに今のところ、再発は起こらずに済んでいますが、一回でも大変な経験をしましたので、これ以上の辛さは考えられないと、強迫観念を強く持っています。
残りの人生は、長いのか短いのか、どんな事があるのか、誰にもわからないからこそ、命が尽きるまでは、自由に人間らしく過ごしたいと、願うのは当たり前だと思います。
だからといって再発に怯え、自分のやりたいことを諦めて、ただ生きていたってつまらないと思います。
前提としては、自分として最大限の予防策はいたしますが、絶対に大丈夫という保証をされないのは、皆同じではないでしょうか。
リハビリも転ぶことを恐れるあまり、一歩も足が出せないようでは、歩けるようにならないように、何かを成し遂げるには、リスクを取る必要もあると思います。
私はゴルフを楽しめるまで回復致しましたが、主治医からは、「せっかくここまで来たのに、自殺しに行くようなものだ。」と反対されますが、長い間、寝たきりに近い生活しかできない時に、自問自答してはっきりと分かったことは、ただ何もできず横になっている苦しさは、生きる意味すら持てない。やりたいことが出来て、生きがいが持てるという、当たり前の結論だが、失わなければ気が付かなかった。
人それぞれで考え方は違うと思いますが、再発予防も含めた人生設計が、必要ではないかと思います。
継続
人間は苦しいとか、辛いとか痛いという事からは、逃げるのが本能だと思います。
リハビリもそうであっては、続くはずがありません。
一時的に自分を追い込んで、集中的にリハビリをして効果を上げたとしても、そのままやる気につなげられる人は少数で、続かなくなる人や、先が長いことに気付き、諦めてしまう人、どこかを故障してしまい、やりたくても出来なくなってしまうのが、大多数だと思います。
考え方は色々あって当然だと思いますが、日常生活が気持ちよく送れることを中心にして、生活の中にリハビリを取り込む形で、小さな成功体験を積み重ねられるよう、目標や方法、難易度の考慮など、自分に最適で効率的なプログラムに従い、行わなければ長続きしないと思います。脳卒中の後遺症は手強く、そう簡単に現代は治す術を持たないので、長い目で気長に取り組むのが、体や心には健全なアプローチになると思います。
全ての人に当てはまるかは確信ありませんが、私の体験では、かなり回復させることが出来ると思います。ただ安静にし、自然治癒するということではなく、正しい理解のもと、繰り返しトレーニングをして、微妙な変化にも喜び、自分の目標ややりたい事に、近づいていることをモチベーションにし、習慣化してしまえば、特別な能力など必要としません。
今のところ、そんな地道な方法が近道なのかもしれません。
何でも過ぎないこと
脳も体も脳卒中後の個人差は大きいと思いますが、ストレスに対する耐久力が、低下しているのが普通です。
私にとって耐えられる負荷の量が、あまりに少なくなっていて、些細なことでもやり過ぎると、しっぺ返しになって返ってきて、その都度苦しいペナルティーを、受けざるを得ませんでした。
主治医から、「早く自分の取り扱い説明書を作りなさい。」とアドバイスを頂きましたが、本当の意味で理解するには、3~4年はかかってしまいました。
特に麻痺側は、トレーニングをし過ぎると、ただでさえやせ細った筋肉が、もっとしぼんで、スース―という感じでしか表現出来ませんが、もともとの弱い力さえ失い動かなくなってしまう。リハビリの意味さえ無くなってしまう残念な体験をしました。
疲労させ過ぎると後遺症の回復には、逆効果になってしまうので、決してやり過ぎないで下さい。
脳も体も適度な刺激と休養がバランスよく取れないと、リハビリは成功しないはずです。
自分のペースをしっかりと守りながら、続けられるのが重要です。
過ぎたるは猶及ばざるが如し。
環境
人間とほかの動物の大きく異なることの一つは、環境を変えることが出来る事です。
自分にとって生きやすいように色々なものを調整し、なるべく快適な生活を手に入れられます。人間が環境に適応する能力が高いことは、今日の繁栄を作り上げているということだと思います。
脳卒中後に家をバリアフリーにしたり、歩くのに適した場所や不自由な体を補う方法、道具を考えたり色々と工夫し、不自由な体でも生活できる環境を構築するでしょう。
生活のための基本を確立できれば、その上を色々考える準備が整ったと思います。
脳卒中の後遺症で、苦手になった環境の中に、飛び込む勇気も時には必要だと思います。
そこに行くと本当に困ることや、色々な工夫で乗り越えられるアイデアなどを、発見することが出来ますが、指をくわえて見ていただけでは、何も生まれません。
最初、一歩を踏み出すには強い思いや勇気がいりますが、中に飛び込んでみると、体験から学ぶことの方が、生き抜く上で力になるはずです。
どうにもならなかったときは、仕切り直せばいいと行動に移せば、力になってくれる人や良い情報に触れる機会、その他色々な縁に巡り合うと思います。
私の場合、退院して自宅での生活が低調で波が酷く、1年ぐらいは妻が付きっきりで、私を支えてくれました。当然のように家族にも迷惑をかけました。
後遺症の回復を話す以前に、人間としての自立できる力がなくては考えられません。
危機的状況な時、寄り添って励ましてくれ、介抱してくれた妻や家族には感謝しております。
脳卒中前とは激変した、先の人生など真っ暗としか思えない自分を受け入れて、全く別人になってしまった己を、どう立て直しいくかは、環境をどうとらえ、生かされていることに感謝すると、風景も見え方が変わると思います。
微妙な変化を喜びと感じる
半年を過ぎた頃から回復は、微妙にしか起こらないと思いますが、それを敏感にとらえてプラスに感じ取る人は、回復しやすいと思います。
同じ回復が起きたとしても、動かせるようになったと喜び、もっと良くなりたいと頑張れる人と、たったこれしか動かないとやる気を失う人とでは、大差が出るのは当たり前だと思います。
よく、私は良くならないと言われる方がおられますが、人間はネガティブな心が働きやすい傾向があると思います。回復すると思ってリハビリに取り組むのと、動かないと思ってリハビリするのでは、違った結果になると思います。
努力すれば、自分の体は応えてくれて、間違いなく目標に近づいていると強い信念を持っていれば、多少のアゲインストな出来事には動じず、ポジティブな心を持ち続けるでしょう。
回復には長い時間と労力がかかるものですが、原動力になる力は目の前で起きていることを、敏感に感じ取り真摯に受け止め、ポジティブな心を積み上げていくしかないと思います。
やりたいことから
自分にとって意味のあることをリハビリするのが、回復にとって重要だと思います。
セラピストや他人から指導されて、ただ漠然とリハビリだからするというのでは、本当の意味の回復は起こらないはずです。
脳卒中で壊れた脳細胞は再生しないので、新たな神経ネットワークを再構築しなければなりません。脳は訳が分からない事には反応せず、自分にとって必要なことや喜びになることには、何とかしようとする力が働きます。
脳が再学習するには、単関節の運動だけでも数千~数万回のトレーニングが必要で、意識することなく素早く思うままに動くには、日常生活の中で使い続けていくしかありません。本当に自分にとってやりたいことでないと、脳は受け入れてくれないし、そんな努力など出来るはずがないと思います。
自分の目標を達成するために自分自身で考え、真剣な取り組みでないと、納得のいく成果は手に入らないでしょう。
目標は具体的に
漠然とただ頑張ると思うだけでは、目標を達成することは困難で、失敗体験を重ねると、学習性無気力に陥る可能性が高いと思います。
自分のやりたい目標から逆算して、今頑張って努力すれば、一か月以内に課題をクリア出来る具体的な目標を設定して、成功を積み重ねることで、やりたいことを見失わず、必ず到達できると思います。
自分にとって多少難易度が高い方が、やる気や工夫を引き出してくれるはずです。
今は実現不可能と思えることでも、行動してみることで具体的な課題が判明し、いろいろな気付きや、解決策も見つかるはずです。
目標も自分の求める成果も、具体的なほど良いと思います。
日常生活で実践
脳の可塑性を引き出すには、反復練習の質と量です。悪い動きを気付かずトレーニングを多くしてしまうと癖となり、変な動作を学習してしまうことを、注意しなければなりません。
又、毎日リハビリしなければならないという義務感では、続かなくなります。日常の何気ない動作の中に、リハビリを取り入れることによって、自分にとって意味のある、効率の良いトレーニングが進むはずです。
生活を向上させるためという目標を、見失わないことです。
自分の専門家
人それぞれ障害は違うはずなので、自分の特徴に精通する方が良いと思います。
脳卒中の後遺症の経験のないセラピストは、理解する努力をしても、イメージ出来ないようなことも、多くあるはずです。その施術が本当に、自分に合うのか合わないか?判断する必要があります。
そして、この感覚でする方が上手くいく、この方法なら興味がわくなど、自分自身のことを、一番の理解者になる必要があるはずです。
どのような回復を望むかは、自分で決めるべきです。
結びとして
医師、セラピスト、医療関係者には命を救って頂き、そして自分ではどうしようも出来ない時に、助けて頂いたことは感謝しかありません。
脳卒中後遺症の回復は、受け身でリハビリしてもらうだけでは良い結果を得られにくく、自分が主体となって取り組まなくてはならないと思います。
発症前の身体に戻るというよりは、新しく自分を作り上げていくということになると思います。成長や発達することで、回復というより改善するというのが、近いと思います。
壊れた脳を再構築するのは、己から望まなければ不可能なことです。自分をコントロール出来るのは、自分でしかないはずです。
脳卒中という強い相手が、人生を立ち塞いだとしても、自分らしい人生は自分で決められます。どんな選択をしても、自己責任なのも仕方ないなら、自由に生きた方が、本当の意味で輝けると思います。
人それぞれの考え方や人生があって当たり前で、皆同じ考え方ではないと思います。ご参考になれば幸いと思います。